クオンツの歴史本「ウォール街の物理学者」を読んだ感想

投資

「ウォール街の物理学者」を読んだので感想を書きます。

ウォール街の物理学者の表紙

物理学で投資に勝てるのか?

「ウォール街の物理学者」は金融経済の分野に果敢に挑んだ物理学者達の歴史が書かれている書籍です。そして打ち立てられた経済理論が書かれた本でもあります。

その昔、経済とは全く関係ない分野だった物理学や数学を結びつけ、その方法論を金融経済の世界に活用する職業は現在クオンツと呼ばれています。

だから本書のテーマをもっとザックリといえば「クオンツとは何か?」ということになります。

私は個人投資家なので投資でいかに勝つのか?儲けるのか?が永遠のテーマです。ですので私は本書を「物理学で投資に勝つことはできるのか?」という視点で読みました。そしていくつかのヒントを得ることができました。

また本書は物理学者というエキセントリックで自由な生き物の生態を垣間見ることもできます。彼らのアナーキーな人柄を私は好きになりました。

クオンツたちの歴史と業績

ここでは私の覚え書きとして、本書に登場する主要なクオンツたちとその業績を時系列順に簡単にまとめます。

ルイ・バシュリエ

19世紀末のフランスで活躍。株価の動きを説明する金融理論を最初に提唱した人物。

株価が上がるか下がるかはランダムウォークであるとし、ある時点からある時間が経過した時点での価格の確率分布は正規分布になると提唱した。

モーリー・オズボーン

20世紀半ばのアメリカ人。ルイバシュリエの説を以下のように修正した。

「正規分布になるのは株価ではなく収益率である」

このことから投資家の心理が市場を動かしていることが分かる。

ブノワ・マンデルブロ

20世紀後半のフランスで活躍。フラクタル理論が有名。

オズボーンがいう正規分布よりも、より激しいランダム性を持つのが市場であることを示した。つまり想定外の事態は思ったよりもよく起きるということ。

ここまでのバシュリエ、オズボーン、マンデルブロまでの3人が金融理論の古典派といわれる。ここまでの人物は実際に投資を行うことはなかった。また彼らの理論の背景となっている効率的市場仮説とランダムウォーク理論からいって、投資で儲ける方法は存在しないという結論になる。

これ以降に紹介する人物は古典派3人の理論を実際の投資に応用した人たちである。

エドワード・ソープ

20世紀後半のアメリカで活躍。カードカウンティングというブラックジャックの必勝法を発明したことで有名。ルーレットの予測マシンも作っている。

ギャンブルの必勝法を投資に応用。オプション取引の一種であるワラントを空売りすると同時にワラントの元になった株を買ってヘッジするというデルタヘッジと呼ばれる手法を確立した。自分でプリンストン・ニューヨーク・パートナーズというヘッジファンドも立ち上げている。

フィッシャー・ブラック

20世紀後半のアメリカで活躍。ブラックショールズモデルの功績でノーベル経済学賞を受賞。

オプションと株のポジション配分を動的にコントロールすることにより、リスクフリーな資産を形成するダイナミックヘッジという手法を確立。ブラックショールズ方程式は適切な株とオプションの配分を計算するための方程式である。

本質的にはソープとやっていることは一緒。だが入口と出口が逆になっている。適性価格から計算をはじめるソープに対し、ブラックはヘッジを組む商品から計算をはじめた。

ブラックショールズモデルの方がファンドにとって都合がよかった。ワラントに限らず証券だろうが債権だろうがヘッジに組み込んでデリバティブ商品をいくらでも開発できるようになるからである。

ジェイムズ・ドイン・ファーマーとノーマン・パッカード

ともに20世紀後半にアメリカで活躍。

カオス理論の研究者だったので、カオス理論を投資に応用したと言われることが多いが実際に行ったのは投資における遺伝的アルゴリズムの応用だった。

ディディエ・ソネット

20世紀末~アメリカで活躍。

物質の破壊現象の研究を応用して、株価の暴落を予想することに成功した。暴落前に「対数周期」という現象が起こる。

エリック・ワインシュタイン

20世紀末~アメリカで活躍。

ゲージ理論を使ってCPIより精度の高いインフレ指標を考案。

ジェイムズ・シモンズ

現在アメリカで活躍する世界一のファンドマネージャー。運用成績はあのウォーレンバフェットやジョージソロスをしのぐ。

ルネサンス・テクノロジーズというファンドで今も桁外れの利益を上げ続けている。

ウォール街の物理学者を読んだ感想

前置きが長くなりましたがここからはウォール街の物理学者を読んだ感想を書きます。

大口の機関投資家の戦略である

まず本書に書かれている投資理論および投資戦略はファンドで行われていること、つまり大口の投資家の話である。個人投資家がこれをそのまま実践するのは不可能である。

しかし大口投資家がどういうロジックで取引しているかを知るのは有意義であった。大口投資家は個人投資家とは全く違うロジックで動いていることがわかった。相場を動かしているのは大口投資家なので、個人投資家は大口投資家の動きについていって利益を上げるしかない。

個人投資家にしかできない戦略もあると思う。それはやはりテクニカル分析による短期投資である。大口投資家は市場に影響を与えるほどのポジションを持っているので気軽に株を売買することはできないから。

リスクフリーの投資は幻想

クオンツたちが編み出したヘッジを効かせたリスクフリーの投資商品などというのは幻想に過ぎないということがわかる。

ただやっかいなのは「リスクフリーらしく見える」ということだ。なぜリスクフリーっぽく見えるかというと、デリバティブ商品はバシュリエやオズボーンが考案した正規分布をもとにしているからである。中央値あたりに株価がおさまることがほとんどなので、ほとんどの場合はリスクフリーに実際になる。

ただし数年あるいは数十年に一度起こる非常事態では大損するという大きな欠陥があるである。これはマンデルブロが言った「想定外の出来事は意外によく起きる」ということを意図的に無視しているとも推察される。

アルゴリズムトレードを勉強してみたい

本書を読んで科学的アプローチが投資に有効であることが分かった。そこでアルゴリズムトレードをやってみたいと思った。自分で簡単なルールを作って過去のチャートで検証すれば何か有効な知見が得られそうな気がする。

ジェイムズ・ドイン・ファーマーの章で出てきた遺伝的アルゴリズムという発想が魅力的だ。今ならば人工知能を使ってアルゴリズムを考えさせるという夢が広がる。

日本人が全然出てこない、日本は金融経済後進国?

最後に本書には日本人クオンツが1人も出てこなかったことが残念だったことを述べておく。

本書の登場人物は大半がアメリカ人であとはフランス人だ。金融経済理論の世界ではアメリカが滅法強いということらしい。

こういう状況だともしかしたら日本市場はいいカモにされているのかも、という懸念も起きる。今後、金融経済理論の分野で日本発の優秀なクオンツが出てくることを期待している。

まとめ:株式市場を見る目が変わります

以上「ウォール街の物理学者」を読んだ感想をお届けしました。

本書を読んでクオンツと呼ばれる人が何物であるかがよく分かりました。そして現在の株式市場にクオンツたちが大きなの影響力を持っていることも分かりました。

クオンツを理解することで株式市場を見る視点がひとつ上がった気がします。

最後に、本書は物理学と経済学の両方の専門的な内容が出てきますが物語仕立てで分かりやすく書かれているので専門知識はなくてもクオンツに興味のある人ならオススメできる一冊です。もちろん専門知識がある人はより深く内容を汲み取ることができると思います。

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